第2編・実践活動〜第6章 公開講座

はじめに
 高等学校の公開講座は、全国的に見てもその組織的な実践例はきわめて少ないが、本校では6年目を迎え、わが校の大きな特色の一つとして定着した感がある。高校教師を主体とする公開講座を本校で6年間にわたって継続させたものは何であったかと考えれば、いろいろなことを挙げることはできるが、それらの中で特に重要な要因として次の3つを指摘することができる。一つは、学習活動を通して父母および地域と連帯のある高校をという理念の追求であり、二つに教師の奉仕的な精神の発露があり、三つに学ぼうとする父母と地域住民が存在したことである。


どのようにして始まったか
 本校は札幌圏における人口増加に伴う入学難の解消のため、市民の強い要望で、昭和47年に開校された。札幌では啓成高校昭和41年以来の久しぶりの公立高校の新設であったが、旧一条中学校の古い木造建物を借校舎として使用するという劣悪な条件でのスタートであった。ようやく同年11月、新校舎の位置が現在地に決定されるに及び、父母と地域住民の熱烈な支援と運動が始まったのである。校舎の早期完成、施設設備の充実、交通機関の確保、道路の整備等について陳情請願、工事現場の慰問など献身的な努力と奉仕が続けられた。かくして、2年後の49年12月に新校舎の完成をみて、移転を完了し、その後の生徒と教職員の努力も認められて、昭和51年北海道教育実践の学校表彰を道教育委員会より受けた。
 これらの盛り上がりの中で、開校5周年記念事業が行われたが、その一つとして学校側から父母と地域への返礼の気持ちを込めて公開講座が実施されたのである。そのことは学校長の次のあいさつに表れている。「今回校舎落成、5周年事業行事の一環として“記念講座”を実施することになりました。これは本校が発足以来、市民の皆様、特に地元の方々に絶大なご支援をいただいて、昨年秋でようやく学校の体制が整いましたので、何らかの形で地元の皆様に奉仕したいと考えています。今回この“記念講座”は学校と地域が緊密な関係を保ちながら、地域の発展に役立てていただければとの念願から、ひとつの試みとして計画いたしました。(略)」(本間末五郎、昭和52年1月、社会科講座テキストより)


どのように実施してきたか

講座数・受講者数
 第1回(51年度) 4講座331名
 第2回(52年度) 8講座497名
 第3回(53年度) 8講座594名
 第4回(54年度) 10講座627名
 第5回(55年度) 10講座607名
 第6回(56年度) 開校10周年記念事業の一つとして9講座で実施中

費用
 第1回は開校5周年記念行事費を当てた。第2回は受講料300円×300人、PTAより助成3万円、道より補助12万円で計24万円。第3回は受講料4.5万円、PTA3万円、道より15万円で計22.5万円。第4回は受講料4.5万円、PTA20万円で計24.5万円。第5回はPTA研修費35万円、第6回はPTAで40万円の予算を計上している。

講師
 すべて本校の教職員であり、今後のこの方針を大切にしたい。それは教職員の人となりとその教育活動の内容を父母と地域に公開する、という原則に立つからである。なお、どの講座も教師の奉仕的精神で成り立っているので、講師への謝礼は原則としてない。

講座の内容
 講師の専門性と趣味によって自由に決めているが、社会科は生徒に行っている授業の内容で同じレベルのものを考えている。高校の授業内容を父母なり社会なりに公開することに意義を見出しているからである。
<1回から6回までに実施した講座名>
 染色、書道入門、社会科、合唱、地理巡検、家庭と学校のかかわり、生物、高校生の進路について、体育、俳句入門

会場
 原則として本校の校舎と施設で行っている。これは、地域に学校そのものを開くという考えからである。

日程
 9月上旬から12月上旬を中心として、平日の夜、土曜日の午後、日曜日、休業日などで、原則として勤務時間外に実施している。特に、本務の教育活動や正常な学校運営には絶対に支障をきたさないように配慮されている。


評議など
 受講者の約40%が本校PTA会員で、他は屯田地区を中心とする一般市民であり、30〜50歳の女性が大半である。アンケートに書かれた受講者の感想の内容は、いずれも素朴で率直であり、学ぶ喜びと感謝に満ちている。それらの感想をまとめると、大体次のようになる。「自信がなかったが参加してよかった」「今まで何かやりたいと思っていたが、ひとつのきっかけを得た」「生きがいを見出した」「今後も継続してほしい」「先生方の熱意に感謝する」「受講料を徴収してでももっと拡充してほしい」「学校に親しみがもてるようになった」「子供との対話がふえた」などである。


札幌北陵高校の「公開講座」について/文部省(当時)中等教育資料・昭和56年2月号
 北陵高等学校は、その設立の段階からすでに地域住民との密接な結びつきをもった学校である。「公開講座」はこのような経緯から生まれたものである。これは授業内容を地域住民に公開しようというものであるが、単なる公開というより教師が己の授業の是非を世に問う意味をもっている。公開講座の対象を生徒の保護者に限定せず、一般の地域住民を含めたのもその現れである。近年、国の内外で教育の責任性を問う動きが強まっているが、北陵高校の「公開講座」はそれに応えようとする先駆的な実践であったと考えられる。
 講座の内容は「授業」と全く同一のものだけでなく、この点当初より多様化しているが、高校の教育内容を生徒と保護者及び地域住民が共通にもつことの意義、講座を介した教師間の結びつき等、北陵高校の実践が現代の高校教育に示唆するものは大きい。